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【2024/11/24 20:40 】 |
文章の練習
@小説の練習として文章を書いたが、「小説家になろう」に投稿できるレベルではないし(何しろ完結していない)、だからといってそのままお蔵入りというのももったいない気がしたので、ここに公表します。@

 学校の授業というのは監獄だと、どうやら同級生たちはそう考えているらしい。ほとんどの奴らとは、まともに会話したことがない。佐々木には、彼らが宇宙人のように遠い存在にしか思えなかった。
 授業の時間の方が、彼にとって有意義だったから。教師の話す内容が有意義だというのではない。雑念にとらわれることなく、自らの哲学的思索にふけることができたから。そして、一人で考え事をしていても、目立つことがなかったから。
 授業の合間の休み時間は、監獄からの開放だと、ほとんどの連中は思っているだろう。例えそれが先生お気に入りの優等生だとしても、休み時間はお喋りに花を咲かせ、たわいのない遊びをして、笑っている。
 佐々木は、そんな教室内の空気の中から、浮き上がっていた。いや、逆だ。彼だけが、氷のように冷たく、泉の底のように暗く沈んでいた。
 楽しいお喋りを聞いていると、佐々木の目には涙が溢れてきた。なぜ、自分は彼らのようではないのか。当たり前のように冗談を言い、何か集団で楽しめる遊びに参加できないのか。どこかで、何かを失ってしまったのか、それとも最初から何かを持っていないから、孤独なのか。
 一人で何もしないでいても、誰も話しかけてこない。かといって勉強する気にもなれない。佐々木は、勉強も嫌いだったから。
「親はさ、勉強しろ、勉強しろうるさいけどさー、やっぱ高校時代にしかできない事ってたくさんあんじゃん。それをしないで、高校卒業しちゃあもったいないよね」
「そうよねー、働き出したら、遊びなんてできないっしょ」
「なんか、時々、つまんなそーな生活している奴いるけどさ、マジうざいよね。何考えて生きているんだって感じ」
 髪の毛を思い思いの色に染めた女子生徒たちの声が耳障りだ。うるせー、俺だってお前達のように、楽しく生きたいよ! でも、どうしたらいいのか分かんねえんだよ。
 佐々木は仕方なく、机の引き出しから一冊の本を取り出した。ある、フランス人哲学者について解説している本だ。抽象的な思考だけが、下らない音声から心を遮ってくれる。多分、あの不良どもからすれば、ガリ勉のように見えるのだろうが……。
 心は、世界とどのように繋がっているのだろうか。もし、何らかの規則が、人間の認識の仕方を決定できないとしたなら(なぜなら、いかなる認識の仕方も、どんな規則とも一致させることができるから)、われわれは世界をデタラメに解釈していることになる。われわれが認識する世界が正しいかどうか、誰にも分からないのだ。
 だが、事実、われわれの認識はおおむね間違いを犯していないだろう。間違いを犯しているなら、われわれは生存できないだろうから。では、何が心を世界につなぎ止めているのか……。それは真理を通してである。窓の外に雨が降っているという認識は、窓の外に雨が降っているという事実と合致していることによって、世界と繋がっているのだ。
 では、真理とは何か。
 
 真理とは何か。なぜ、この監獄で無駄な時間を消費しているかも知れないと自覚している(かも知れない)ほとんどの生徒は、この疑問にぶつからないのだろうか。教師に無意味に反抗する不良たちも、教師と自分達の認識に隔たりがないことを、つまり教師と自分達が真理を共有していること自体を疑うことはない。本当に教師を困らせたいのなら、「真理とは何か」と、問うだけでいい。彼らはしどろもどろになるに違いない。
 佐々木は、無性にイライラし始めた。どうしようもない閉塞感。本当は、真理とは何かなどという問が、生きていく上で何の役にも立たないことを、彼は分かっていた。閉塞感を破ることができるのは、暴力、それも圧倒的な暴力だけだった。
「真理とは何か、なぜ、君たちはこう疑問を思わないのか」
 誰かが大声ではり叫んだ、佐々木は自分の声が空気を介さずに漏れ出たのかと思った。
 稲葉という、不愉快な男がそれを口にしたのだった。
「君たちは、檻の中に閉じこめられているのだ。なぜ、それに気がつかない!」
 教室内にざわめきが増す。元々おかしい奴が口走ったなら、皆ただあざ笑い、あるいは無視するだけだろう。だが、他ならない稲葉の言葉だ、誰もが不気味なものを感じた。
「君たちには、見えないのか!」
 稲葉は大空を指さした。佐々木は空を見あげるが、もちろんそこに目立ったものなど何もない。くすんだ灰色の空……。
「上空から、見下ろす、支配者の瞳を!」
 稲葉は、佐々木とは対極の位置に立つものだった。つまり、クラスの輪の中心だった。頭もよく、運動もでき、彼がいるだけで教室は華やいだ。その彼が、なぜ?
「ここは、シャーレの中。細菌の生態を観察する科学者のように、支配者は我らを監視している!」
 おい、突然どうしたんだ、と稲葉と仲のよい男子生徒が止めに入った。だが、稲葉は喋るのをやめない。
「君たちの携帯に、メールが入ったりしていないか? おかしな記号の混じった、日本語とも思えないようなメールが!」
 心当たりのあるものが、クラスの半数ほどいたようだ。教室のざわめきは増す。
「それは、世界の解放を試み、失敗した神楽坂涼子からのメッセージだ。もっとも解読できたものはいないだろう。僕以外は!」
 女子生徒の一部が、金切り声を上げた。神楽坂涼子は、動機不明の自殺を遂げた、この高校の生徒だ。佐々木のもとに、そのメールは来ていない。
「この世界から脱出し、真理の世界へと到れ、さもなくば人類は滅亡する。それが、彼女からのメッセージだ!」
 自分と正反対の立場にいる人間が、これほど興味深い状況を作り出してくれるとは、全く思っても見なかった。佐々木は席を立つと、教室の中央、稲葉のもとへと歩み寄った。
「彼の言うことは、事実かも知れない」
 佐々木は、注意深く辺りを見回した。突然劇場の中心に現われた、日陰者の姿に皆注目している。これほど気分のいいこととは思わなかった。
「パラダイム・シフトという言葉がある。それまでのものの見方が、一変してしまうような発見があることだ。いい例が、地動説から天動説へのシフトだろう。そして、多くの哲学者たちが、まもなくパラダイムシフトが起こるであろう事を予想している」
 突然の乱入者に、稲葉が驚くことはなかった。まるで予想済みであるかのように。それが演技だとすれば、相当の手練れだろう。
「そして、次のパラダイムシフトでは、それに適応できないものが死滅するという予想もある。科学文明を拒んだ、多くの少数民族が滅んでいったように……」
「……、佐々木君が、言うであろう事は、僕も予想していた。パラダイムシフトとは、僕の言葉では、シャーレからの脱走だ! それができぬものは死に絶える」
 佐々木は、まるで歴史の表舞台に立ったような気分になった。仏陀のように、イエスのように、世界を変革する教えが誕生する場を自ら作っているのだ! これこそが、佐々木の望んでいたことだった。なぜ、もっと早く、事件は起きなかったのか!
「僕は予言する。まもなく、一つの流血事件が起こるであろう。それが、世界滅亡への一つの兆候だ!」
 四時限目の授業開始を告げるチャイムが鳴った。保健体育のいかめしい教師が入ってくるが、教室中のざわめきは治まらない。
「何だ、何だ。授業の始まりだぞ。 席に着け、静かにしろ」
 教師は大声を張り上げるが、ほとんど無意味だった。
「おい、稲葉! 席に着け」
 教師も、どうやら輪の中心が稲葉であることを直観的に把握したらしい。だが、効果はない。
「先生、あなたも愚かな人だな。世界が終わろうとしているのに、暢気に授業など……!」「何。席に着かんと、はり倒すぞ」
「僕は予言する、まもなくあなたは瀕死の重傷を負うだろう」
 稲葉は低い声で言った。
「なんだと……。ふざけるのもいい加減に……」
 その時、教室の扉が激しい音を立てて開いた。扉の外側には、刃物を構えた男が立っていた。口からはよだれを垂らし、目は血走っている。薬物中毒であることは明白だった。
「お前は、外村……」 
 教師は、自分が停学処分にした生徒の名を呼んだ。そうだ、確かにあいつの名前は外村だった。
 外村は奇声を発しながら、突っ込んでいく。教師は避けることもできず。
 刃物が、腕をかすめ腹に突き刺さった。
 あらゆる動きがスローモーションのようだった。逃げ出す生徒の波。稲葉は、超然として見下ろしている。佐々木は、掃除用のモップを手に持った。あたかも、稲葉を守る使徒か天使のように。
 誰か、全てを仕組んだ奴がいる。しかも、神のような力をもった何者かだ。 
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【2012/03/18 23:07 】 | 未選択 | 有り難いご意見(0)
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